シンジャの中でもとりわけ深い森に覆われた土地、アスハ。そこは神樹とその声を聞く巫女姫、そして巫女姫の護人達が住まう場所がある。
「このたび、神姫・リクハ様の筆頭警護を勤めさせていただく事になりました。クウガ=アカツキと申します」
銀の髪を片側だけ短く刈り込んだ不思議な髪型をした青年は紫色の御簾の前で座ったまま頭を下げた。
「暁…そなた、なかなか食えぬ顔をしておるのぅ」
「お褒めに預かり恐悦至極で」
「よい。では、こちへ来よ」
「ハッ…」
御簾の内へ通されるとそこには年齢不肖の美女がいた。
「妾が何故、お前を筆頭に据えたか分かるか?」
「いえ…」
「お前は改革者じゃ。この庭は妾にはちと住み難ぅてな」
「なるほど…確かに、ここ数年政府の干渉が多いと思えば…」
クウガは歯に物を着せない。ただ、思う言葉を紡ぐ。
「キサラギを知っておるな?」
「はい」
「アレは政府に近しい家じゃ。だが、政府にくれてやるには少し惜しい。ナオヒはなかなかに良い男でな…」
「あぁ、あーゆーのが好みですか?」
「馬鹿者!」
叱責されても別段クウガは平気だ。顔色一つ変えない。
「今な、子犬を一匹飼っておるのじゃ。キサラギのな」
「子犬…ねぇ」
案内された先には梅の花が咲き乱れる美しい庭。そこに白い髪の少女が3人、黒髪の少年が1人、毬つきをして遊んでいた。
「確かに子犬だ」
「アレをキサラギの当主に据える。既にナオヒには話をしてある」
「へぇ…でも、キサラギの次期はカイリくんに決まってましたよね?」
「そうじゃ。だがな、霊力の質は唯里が勝っておる。だから物心のつかぬ間に取り上げてやったのじゃ」
リクハは不敵に美しい笑みを作る。
「それはそれは…」
「政府は困り果てるじゃろうよ。妾は子犬に首輪を嵌めてやるのじゃからな」
「枷を?」
「唯里に過ぎた霊力はそれに伴う器ができあがるまで取り上げてやるのじゃ。ふふっ…当主が無能では政府は愛想を尽かすだろうよ。だが、実際に唯里に非は無く、政府との関わりが絶たれた折には本来の力も戻ろう。妾は自然を蔑ろにする政府を護ってやる気は更々ないのじゃ。都を遷すは凶事ぞ。それを理解できぬ者達にはそれ相応の罰を受けてもらわねばな」
リクハの瞳がいっそ禍禍しいほどに美しく輝く。
「妾は室に戻る…暁、お前は三姫に挨拶でもしてくるがいい。麗姫以外とは面識も無かろう?」
リクハは霧の中に身を進めるように姿を消した。クウガは庭に出た。
「あっ…!」
毬がクウガの足下に転がってきた。それを拾い上げて、黒髪の少年に渡してやる。
「ほら、お前のだろ?」
「…あ、ありがとうございます」
少し警戒しつつ毬を受け取る。
(俺、目付き悪ィからな…ヒビキと同じくらいの年か?)
「唯里、どうかしたのか?」
「由唯さま」
白い髪を二つに分けて結わえた少女がやってきた。少女はクウガを見ると凛とした表情になった。
「御主、暁か?」
「良くご存知ですね」
「御主から感じる力、尋常とは言い難い…」
瞳の力が強い少女だとクウガは思った。おそらく、彼女が陽姫だ。
「クウガ=アカツキです。本日より筆頭警護に就く事になりました。以後お見知りおきを、陽姫・アマネ様」
「シオネ、オルハ、来や!」
離れた場所からこちらを窺っていた2人の少女もやってくる。
「暁ぞ」
紹介を受けて、クウガは恭しく礼をする。
「暁…とうとう上り詰められましたわね」
それまでの主である麗姫・シオネが優しい微笑みで言葉を掛けてくれる。
「おかげさまで」
「暁?」
一際幼い少女が星姫・オルハだ。言葉もどこかたどたどしいが、預言をする際には大人顔負けの難解な言葉を繰るらしい。
「そこのボクは?」
「わたしはユイリィ=ゼン=キサラギと申します」
「男の子1人だと立場弱いだろ?俺が味方になってやろうか?」
「えっ?」
「男の子の遊びを教えてやるよ」
クウガはできるだけ優しく微笑んだ。すると、ユイリィも破顔する。
「はい!」
手首に嵌められた紫水晶の数珠。霊眼の宿るクウガには数珠の表面に刻まれた黄金の呪言を捕らえた。
(これが封印…三姫と同時にリンクする霊環か…)
神の庭に住まうは神の養い子。
選ばれた者はその身に神なる樹の種を宿す。
また、生まれながらに花紋を宿すは巫女となる。
神の庭に咲く花を浚うは風か?それとも――。
『ユイリィ無能説』の秘密。
クウガ兄者、初のGSL登場。
隼人衆は選ばれると『字(あざな)』を与えられます。
クウガならクウガ(空牙)=アカツキ(暁)=ライデン・ソールという名前に。
ちなみにヒビキはヒビキ(響樹)=メイゲツ(鳴月)=ライデン・ソール。
転じて『暁のクウガ』、『鳴月のヒビキ』と呼ばれます。
漢字表記は『眞名』を呼んでいると理解していただければ。